いよいよ発売も見えてきたカヤック・セーリングキット。その開発のきっかけは「この世界の片隅に」のこのシーンだった。

「この世界の片隅に」WEBページ

 時は2016年の年末、満席のテアトル新宿で「この世界の片隅に」に感動した小生は閃いた。この映画の舞台となっている広島の川を、この映画の冒頭ですずさんが帆掛け船で広島の中心部まで遡って行ったのと同じように、カヤックにセールを立てて登って行ったらどうだろう。そしていわゆる聖地巡礼となるが、川のカヌーで行くという聖地巡礼という形は自分たちがやるしかない!
というわけで、まずはカヌーワールドvol.14の「ファルトボートに首ったけ!」で行く場所は決まった。あとはセールだ。しかし日本の和船のようなセールキットを出しているメーカーはなかった。

 そこで年は開けて2017年の初頭に、バタフライカヤックスの高嶋さんに製作の打診をする。小生が最初に提示したイメージはこんな感じだ。
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イメージ的には昔ながらのシンプルな「帆」でしょうか。
瀬戸内海の風景に溶け込むようなデザインがいいですね。いわゆるバイダルカの先進的なデザインは、ちょっと違うかな、と。色も白か生成り。
あとは簡単で軽い造りですね。追い風の時に機能できればいいと思っています。汎用性も高めたいところです(タープになるとかよろしくないですか?)。
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そして、高嶋さんからはイメージ図とともに挑戦してみるとの連絡。これは嬉しい。脳内の想像ビジュアルが一気に広がった。

取材はこの年の3月を予定していた。実質的な製作期間は2ヶ月。バタフライカヤックスは姫路にあるし、当たり前だけど通常のファルトボート製作を優先してもらうので、とにかく「できる範囲で」「ビジュアル優先」で製作してもらうしかなく、結果テストも任せ、あとはぶっつけ本番でやるしかない。そうなるとぶっつけ本番でも大丈夫なのか、絵的にはどこで撮ったらより映えるのか、自分的にはやはりフィールドの下見が必要と判断した。
 とはいえ、編集部では下見のための費用なんか用意してくれないので、その年の冬に家族旅行も兼ねて広島、呉での「聖地巡礼」と相成ったのである。

 しばらくすると、プロトタイプのテスト結果のメールが来た。予想以上の性能が出て、高嶋さん的にも面白くなってきたようだった。これは嬉しかった。作る人が乗ってくれないと、いいものはできないものだ。
 
 そして4月13日出来上がったセールと説明書が届き、取材は無事終了した。その時の様子はぜひ本誌を読んでほしい。

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 記事も当初はカラー6Pだったが、2日の間に実に色々なことがあったので、8Pとなった。そして、ストーリー上欲しかった「この世界の片隅に」の製作会社であるMAPPAに映画の画像の使用の許可を申請したところ、快く許諾していただいた。そして後日、片渕須直監督も確認のために送付した初稿を読んで「楽しみにしています」というコメントを頂いているという連絡も頂いている。
 セールについてはちょっとアクシデントはあったものの(これは、そんなところで帆を上げる方が悪いのであるが)、その効果は元々狙っていたビジュアル以上に「面白さ」があり、高嶋さんとも開発の継続、そしていつかは商品化を約束することとなった。
 全てはここから始まったのである。